金がない。というか金があってもたぶん払えない。
死ぬ前に持っていた向こうの通貨は宝石に変わっていた。 それに宿代の支払いは恐らく商取引に該当するだろう。(・・・どうすんだこれ?宿屋もだが食事や道具の補充などあらゆる支払いができないってことだよな?・・・物々交換?宿代や食事代の支払いを?食事はともかく宿泊は物じゃないよな。家自体を交換して貰うことはできるかもしれないが、今の持ち物じゃ流石に足りないだろう。)
考えれば考えるほど今後に不安が募っていくが、現状通貨を得る方法がない以上できることを試してみるしかないか。
そう考えて食堂兼宿屋となっている建物に入る。「いらっしゃい。外のお客さんとは珍しいな」
中に入ると主人と思われる男が声を掛けてくる。
「あ、あぁ。食事と宿を頼みたいんですが」
「1泊20リム、食事付きなら30リムだ」 「あ~その、支払いなんだがこれでお願いできますか?」そう言いつつ、小粒の宝石を出してみる。
「いや、そんな物出されてもな」
「そ、そうですか。俺は商人なんですが、さっき門番の人にこの村では薬が不足気味だと聞きました。そこで、この薬では宿代の代わりにはならないでしょうか?」そういって今度は何種類かの薬を出してみる。
「いや、薬が不足気味なのは確かなんだが・・・やはり現金で払ってもらわないと困るな」
先ほどの宝石よりかなり興味は引けたようだがやはり結果はダメだった。
物での支払いを拒否しているのか、スキルの影響で拒否されているのか判断が難しいが、間があったことから考えると後者の可能性の方が高そうな気がする。 仕方がないので、別の方法を試してみることにする。「分かりました。。変なことを聞いてすみません。これは詫びとして取っておいてください」
そう言って主人の目線から欲していたと思われる薬を渡す。
「え?いいのか?いやでも流石に悪いような・・・」
「いえいえ。当てができたらまた来ます」そう言ってそのまま宿屋を後にした。
もちろん意味もなくタダで薬を渡したわけではない。 主人に先に利益を齎すことで好感度を上げておき、相手の好意で1泊泊めて貰えないかと考えたのだ。最悪食堂の隅を借りれるだけでも外で野宿よりはマシだろう。 何だか商売の裏道や抜け道を探しているようで多少の罪悪感があるが身の安全には代えられない。 まぁ、これについてはすぐ戻るわけにもいかないので一旦保留にして道具屋に向かうことにした。「いらっしゃい」
店に入ると店主に声を掛けられる。
商品は農具や大工道具が多いようだ。ぱっと見では目当ての品は見つからなかった。「道具袋とランタンあと何か武器になるようなものとテントはないでしょうか?」
道具袋は1つでは容量不足になると思われるためだ。武器などもそうだが、今の商品は主に薬なのだ。これが農作物などになった場合、大した量は持てなくなる。これも今後の課題だな。
「うちは村で扱うようなものが主なんだけどね。残念ながらテントは無いよ。あとは・・・ちょっと待ってな」
そう言って店主は裏に回った。少しすると商品を持って戻ってくる。
「悪いがどれもこの1点しかないよ。買いに来る客なんて滅多にいないからね」
近づいて商品を見せてもらう。武器として持ってきたのは短剣だった。
いずれも品質に問題はなさそうだ。「ランタンのオイルは?」
「1日分ならここで入れてやるよ。予備が欲しければ雑貨屋に行ってくれ」 「なるほど。代金はいくらになりますか?」 「袋が60リム、ランタンが80リム、短剣は100リムだ」ランタンの方は少し高い気がするが、この辺だとガラスは希少なのかもしれない。必要なものだし仕方ないか。
「なるほど。これで取引できますか?」
そういって宿屋で見せたのと同様に宝石を出してみる。
「う~ん・・・まぁ、いいかね」
店主は渋い顔でそう返してきた。
良かった。物々交換を持ちかけること自体に違和感は持たれてなさそうだ。 だが、それなら渋い顔をしているのは?・・・そうか。宝石はこの村では使い道がない。宝石自体が好きな人でもなければ換金の手間が掛かるだけだろう。 つまり需要が低いから嫌がられているのか。 だが、その割には価値は割と適正に評価されている気がする。 今出した宝石は標準的な価値では320リムほどのものだった。「いや、すみません。こちらの薬のほうが良いでしょうか?」
試しに先ほどと同様にいくつかの薬を出してみる。
「へぇ、あんた商人だったのかい。そうだね・・・これとこれでなら交換で良いよ」
そう言って店主が手にしたのは価値にして120リム程度のものだった。
待て待て、確かに需要はあるんだろうが、倍の価値で取引が成立するのは都合が良すぎないか? それほどに需要による交換レートの比重が大きいのだろうか。まさか初対面で好感度が高いわけもないし・・・。 だが良い方法に気づけた。こちらからは複数提示して相手の望むものを交換対象にして貰えばかなり有利に交換が成立できる。「どうかしたかい?」
思わず考え込んでいると店主から怪訝な顔をされてしまった。
「いえ、なんでも。あとできれば何か仕入れたいのですが、この村に特産品の様なものはないでしょうか?」
「特産品かい?いやぁ、そんな特別なものはないねぇ。しいて言えば雑貨屋の店主が趣味でやってる木彫り細工くらいかね」 「木彫り細工?」 「あぁ。結構良い出来でロンデールの町から偶に買い付けに来る商人がいるくらいだ」 「それはすごいですね。ちなみにロンデールって町はどっちの方角にあるんですか?」 「ロンデールかい?街道を北へ向かって分かれ道を東に行った先だよ」町の情報まで手に入ったのはラッキーだった。特産品もあるみたいだし、良さそうなものがあれば買い付けてロンデールに行くのもいいかもしれない。
「分かりました。ありがとう。」
買ったものを道具袋に纏めて店を出る。
良い情報も貰ったし次は雑貨屋に行ってみるか。「いらっしゃい。初めてのお客さんだね」
「えぇ、ランタンのオイルの予備と木彫り細工というのを見せて欲しいんですが」 「あら、うちに木彫り細工を置いているなんてよく知ってたね」 「さっき宿屋に行ってそこの主人に聞きました」 「あぁ、ランブルさんにね。オイル瓶なら2日用と4日用があるよ。木彫り細工なら向こうの棚に置いてるから自由に見てくれ」 「ありがとう」言われた通り棚の方へ向かうと大小様々な木彫り細工が置いてあった。
ベッドやいすのような家具のミニチュアやリスやクマのような動物を模したものなど。 俺には審美眼などないがそれでもその細工は精巧なものに見えた。「あなたの細工物をロンデールの商人が時々仕入れに来ると聞いたんですが、その時はどんなものが良く買われているんですか?」
「ん?もしかしてあんたも商人かい?あぁまぁ、確かに好事家には見えないか。そうだね、その人はよく家具のミニチュアを買っていくよ。贔屓にしている貴族様が気に入ったらしくてね」なるほど。売り先が決まっているわけか。俺にはそんな伝手はないし参考にはならないな。だが、これだけのものなら町で売れる可能性は十分あると思う。
そう考えなるべく荷物にならなそうな小動物の細工物をいくつかと日持ちしそうな食糧を選んで店主に聞いた。「2日分のオイルとこの細工物、あと食糧で合わせていくらになりますか?」
「え~っと、全部で400リムだね。端数はおまけしておくよ」思ったよりもだいぶ安い。うまく町で売り先さえ見つけられば、かなりの利益が見込めそうだ。
道具屋の時と同様に複数の品を見せて希望するものを選んでもらい280リム分くらいの薬や日用品で取引を済ませることができた。 と、店を出た辺りで変化に気づく。 スキルのレベルが上がったらしい。早速確認してみる。--------------------------------
スキル:わらしべ超者Lv2 自分の持ち物と相手の持ち物を交換してもらうことができる。 自分の持ち物と各種サービスを交換してもらうことができる。交換レートはスキルレベルと相手の需要と好感度により変動する。
スキル効果により金銭での取引、交換はできない。--------------------------------
各種サービス?またずいぶん大雑把な説明だな。。
普通に考えると接客業だろうか? 飲食や医療のような・・・待てよ?もしかして宿泊も含まれるか? ・・・うん。そんな気がする。 はっきり説明がないのがもどかしいがとりあえず試して損はない。 そう結論付けて再度宿屋に戻ることにした。昼食を終えて少しゆっくりした後は、再び街中を適当に散策していた。 すると町の一角に市場のような場所があった。 近くの人に尋ねてみると、ここはフリーマーケットとして開放されている広場で誰でも自由に取引ができるようになっているようだ。冷やかしや珍品目当てなど目的は様々だが、観光客も多く結構な人で賑わっていた。 商人としては、こんな光景を見てしまうとどうしても気になってしまう。 一通り見て回ったところで俺は二人に断りを入れて、自分も露店を開くことにした。「せっかくの骨休めでしたのに。でも、やっぱりアキツグさんはそういう姿が似合いますね」 『最近は色々あったけれど、やっぱり根は商人ってことよね』 「そ、そうか?まぁなんだかんだで歴は長いからな。二人は気にせず楽しんできてくれ」 「分かりました。ロシェさん行きましょうか」 『えぇ。アキツグ、さっきも言ったけど一応気を付けてね』 「あぁ、分かってるよ。そっちもな」取引を終えて宿に戻ろうとしたところで、違和感に気づいた。 ロシェの気配がしばらく前からずっと同じところに留まっているのだ。 少しくらいなら景色を眺めていたり、軽食を摂っていたりということもあるだろうが、そう考えるには時間が経ち過ぎていた。 気になった俺はロシェの気配の方へ向かうことにした。 気配を追っていくと辿り着いたのは建物の隙間にできた小道の様な場所だった。 ロシェの気配は、未だにその十字路になっているあたりに留まっている。近づいてもこちらに気づく様子もなく、近くにカサネさんの姿もなかった。(おいおい。嘘だろ?あの二人も警戒はしていたはずなのに、一体何があったんだ?)一応俺は警戒しながらロシェに近づいて行った。当たりに人の気配はなかったが、二人に何かをした存在がまだ隠れている可能性もあったからだ。 しかし、そんな警戒も空しく何事もなくロシェの側まで行くことができた。 ロシェは姿隠状態のまま気を失っているようだった。揺り起こすと少しして目を覚ました。『う、くっ、ここ・・・は?』 「大丈夫か?何があったんだ?」
「コゲンジさん、お久しぶりですね」 「えぇ本当に、エレンジアである日から急に姿を見かけなくなったので、心配していたんですよ。今まではどちらに?」 「レインディア大陸の方に渡っていました。冒険者ですから、他の街に移るのも別に珍しいことではないですよ」 「それは…そうかもしれませんが、友人が急に居なくなったら寂しいじゃないですか。せめて一言教えてくだされば良かったのに」 「それはどうもすみません。少し急いでいたものですから」パッと見る限りでは知り合いが再会の会話を交わしているだけにも見えるが、 二人の温度差には明らかに違いがあった。カサネさんの口調も普段とは異なり硬いものだ。恐らくはこの人物が以前にカサネさんが言っていた面倒な人なのだろう。相手の様子からもこのままだと面倒な展開になりそうだ。ここは割って入るべきだろう。 俺は灯り石を購入すると、敢えて今の会話に気づいていなかった素振りでカサネさんに声を掛けた。「カサネさんお待たせ。石も良いのが買えたしそろそろ昼食にでもいこうか」 「あ、はい。コゲンジさんすみません、連れも戻ってきたので私はこれで」 「えっ!?ちょ、ちょっと待って下さい。連れってこの人がですか?カサネさん、ずっとソロで活動していて特定のパーティには参加していなかったのに」前までがそうだったとして、何でパーティを組んだくらいで問い質されなきゃならいないのだろうか。そんなことまで知っているのも含めて本当に面倒そうな人だ。「今まではパーティを組みたいと思う人が居なかっただけですよ。連れを待たせるのは悪いのでこれで失礼します。行きましょう、アキツグさん」そういうとカサネさんは俺の腕を掴んでさっさと歩きだした。腕を引かれた俺もその後に続いたが、振り返る前に一瞬目が合った彼は俺のことを憎々しげに睨みつけていた。 しばらく歩いて近くにコゲンジの気配がないことを確認した辺りで、カサネさんが一息ついてこちらに謝罪してきた。「さっきはすみませんでした。まさかこんなところで会うなんて。あの人が以前話していたコゲンジさんです」 「やっぱりか。知り合いみたいなのにあんな風に接してたか
カランダルさんに紹介して貰った宿屋で部屋を取った俺達は、さっそく温泉に入りに来た。観光地だけあってペット同伴で来る人も多いらしく、専用のエリアも用意されているため、ロシェも問題なく入れるようだった。 なおロシェにはカサネさんと一緒に女湯の方に行って貰っている。気にする必要もないとは思うが、まぁ気分的なものだ。 体を洗って温泉に入ると、温泉の温度もちょうどよく、蓄積された疲れがゆっくりと温泉に溶けていく様だった。「あ~やっぱりこれだよなぁ。景色も良いしカランダルさんがお勧めしてくれたのも納得だな」紹介された宿は街の端にあり、温泉からは周囲の山々が見渡せるようになっていた。温泉もいくつか種類があり、泉質も異なっているようだった。 前日の件で睡眠時間が少なかったのもあり、うっかり湯の中で寝てしまいそうになったが、何とか耐えて部屋まで戻ってきた。 少し休んでいると仲居さんが夕食を持ってきてくれた。それらも豪勢でどれも美味しいものだった。ただ、こんなところでもライアン果樹園の果物が出てくるのは流石というべきか。きっと提携しているということなのだろう。 そして、驚いたことに寝具に布団一式まで用意されていた。ここにも前の世界の住人が何か知ら関わっていたのかもしれないが、睡魔に負けた俺はそこまで考えることもなくその日は早々に眠りについたのだった。翌日、俺達は三人で温泉街を見て回ることにした。 昨日カランダルさんに聞いた話によると、ヤミネラさんと属性付与とカランダルさんの特性付与については素材さえ揃っていれば、付与自体はそれほど時間の掛かるものではないらしく、数日もあれば終わるだろうとの話だった。 なので、それまではこの温泉郷で骨休めというわけである。やはり観光地だけあって町並みは美しく、街の中央には温泉饅頭や温泉卵、湯豆腐など温泉街ならではといった食べ物や土産物屋が立ち並んでいる。各温泉を巡るスタンプラリーまであるようだ。街の奥は山道まで続いており、山中には秘湯のようなものまであるらしい。 一応冒険者ギルドや商人ギルド、武具や道具屋などもあるのだが、そのような店舗は街の一角に目立たない感じで存在していた。「なんか今まで
「ま、まさか?!こ、これも黒真鉄だ。あれだけ探しても見つからなかったというのに・・・あなた達は一体?」 「えぇっと、まぁ色々ありまして。ともかくこれがあれば刀を鍛えることができるんですよね?」 「それはそうなんですが・・・もともと自分で見つけるつもりでしたので、あなた方からこれを買い取れるような資産を私は持ち合わせていないのです」言われて気づいた。正直俺から見ればあの本を見つけた時の副産物程度の認識だったのだが、希少品であるならば相応の価値で取引するのが当然ではある。 とはいえ、ハクシンさん、ヤミネラさんと繋がれてきたバトンの結果が完成しませんでしたとなって欲しくはない。さて、どうしたものか。。 カサネさんの方を見ても同じように困ったような視線が返ってくる。「それじゃぁ、支払いは一旦保留にして、刀ができてから考えるというのは?」 「・・・それは借金ということかい?確かに現状それを譲り受ける方法としてはそれくらいしかないかもしれない。しかし、返せる当てもないのに借金をするのはちょっとね。ヤミネラが信じた君達を信じないわけではないけれど」う~ん。まぁカランダルさんの言うことももっともだ。俺だって逆の立場だったら躊躇するだろう。でも、これもダメとなるともうタダで譲るくらいしか・・・「一つ確認したいのだけれど、そのような提案をしてくれるということは君達にとっては黒真鉄は条件次第で渡しても良いものという認識であっているかい?」 「そうですね。今のところ使い道もありませんし。カサネさんも良いよな?」 「はい。アキツグさんと同じですね」 「そうか・・・であれば、一つ提案があるんだけどそのためには私の秘密も話さなければならない。だから、これから話すことは口外しないと約束して欲しい」問われて俺とカサネさんは顔を見合わせた。この状況を変えられるのであれば是非聞きたいところである。二人でカランダルさんに頷いた。「分かりました。口外しないことを約束します」 「ありがとう。これは私の仕事にも関わることなんだけどね。ヤミネラが属性付与師なのは知っているだろう?それじゃ、ヤミネラが属性付与した刀に私は何をす
近くで野営をしていたこともあり、午前中にはバーセルドに着くことができた。 バーセルドは泉源都市とも呼ばれており、文字通り、街の内外を問わずあちこちに源泉が存在していた。そのためまさに温泉郷といった感じで、様々な泉質を売りにした温泉施設や温泉付きの宿泊施設が立ち並んでおり、街中には無料の足湯場まで作られている。フォレストサイドが近いためだろう、建物は木造建築のものが多くそれがまた和風の雰囲気を漂わせていた。「これはまた・・・なんていうか、初めてきたのになんか懐かしさを感じるな」 「ですよね。私も初めて来た時は同じような感想を持ちました」 『今まで立ち寄った街とはまた雰囲気が違うわね』思わずそのまま近くの温泉に入りに行きたくなったが、そこはぐっと我慢してまずは目的を果たすことにする。代わりに足湯場でのんびりしている人達に混ざりつつ、カランダルさんの鍛冶屋について聞き込みをすると目的の場所は簡単に教えて貰うことができた。 礼を言ってその人達と別れ、教えられた鍛冶屋の前までやってくると一人の男性が店の前で掃除をしていた。俺達が近づくとその男性もこちらに気づいた。「こんにちは。こちらにカランダルさんはいらっしゃいますか?」 「カランダルは私ですが。何か御用でしょうか?」 「ヤミネラさんから手紙と伝言を預かってきました」俺がそういうと、カランダルさんの表情が少し真剣なものに変わった気がした。「なるほど。こんな温泉街で私の店を訪れる人は珍しいので、どういった御用かと思ったのですが。とりあえず中へどうぞ」カランダルさんはそう言うと店の扉を開けて俺達を中へ招き入れた。 店の中はきれいに整理整頓されていた。数日前に見たヤミネラさんの店はもっとごちゃごちゃしていて雑多に物が置かれていたので、なおさら印象深かった。 それに店主のカランダルさんも口では言い表せないのだが、なんだか不思議な雰囲気を持った人物に見えた。「綺麗なお店ですね」 「そうですか?・・・あぁ、ヤミネラの店を見たんですね。あの子は片付けが苦手ですからねぇ。逆に私は片付いていないと落ち着かないもので、あの子とはよく言い合い
テントにカサネさんを寝かせてから少し先ほどのことを思い返してみたが、 やはり何も分かりそうになかった。あの魔法についてはカサネさんが起きたら 聞いてみるしかないだろう。 一先ずはそう結論付けて朝食の準備をしていると、少しして二人が起きてきた。「二人ともおはよう。カサネさんは大丈夫か?」 『おはよう。あのあと何かあったの?』 「おはよう・・・ございます。っ!大丈夫とは言い難いですね。頭痛が酷いです。 魔法を発動させた以降の記憶がないんですけど、あのあとどうなりました?」やっぱり、魔法を発動させた瞬間に気を失っていたのか。 結果論になってしまうが、あの時無理にでも止めるべきだったな。「魔法は発動していたよ。突き出した手の先にあった竹の間に黒い球が現れて、次の瞬間には黒い球ごとそこにあった幹も消失してた」 「そうですか、、一応発動はしたんですね。制御しきれずに気を失ってしまったみたいですけど、大惨事にはならなかったみたいで良かったです」 「危険な魔法かもしれないと分かっていたんだし、万全の状態で使ったほうが良いんじゃないかと止めるべきだったよ。ごめん」謝る俺に対して、カサネさんは被りを振って返してきた。「いえ、精神状態もそうですけど、あの時の私はちょっと忠告されたくらいでは止まれなかったと思います。だから、あの結果は自業自得です。アキツグさんが謝ることじゃないですよ。こちらこそすみませんでした」そういってカサネさんは深々と頭を下げた。だいぶ参っている様子だ。「いやまぁ、あんな特別な魔法を覚えたら誰だって興奮するだろうし、早く 試してみたくなっても仕方ないさ。今回は大事にはならなかったわけだし、 お互い次回から気を付けるようにしよう」 「はい。ありがとうございます」 『反省して次回に行かせるなら良いんじゃない?その時寝ていた私は正直何とも言いづらいけれど』その後三人で朝食を取っている間もカサネさんは少し気落ちしていたが、 気を取り直したのか食べ終わる頃には一先ずいつもの様子に戻っていた。 落ち着